私にできること

私が人の前世を観れると気付いたのは高校生になった頃からです。それまでにも自分に近い誰かのことを強く意識すると、まったく違う時代背景の中でその人と一緒にいる自分の姿が脳裏に浮かぶことがありました。
小学生の頃、私にはいつも仲良く遊んでいた近所に住む年下の友達がいました。ある日、その子と一日遊んだ後、布団の中で今日一日を振り返りながらウトウトしていると突然見たこともない景色が頭の中に広がりました。そこはコンクリートの建物や舗装した道路や自動車がまったく見えない山と田畑に囲まれたのどかな風景です。その中で狭いあぜ道を歩く12歳ぐらいの私と親しくしていたその友達の姿が見えます。私たちはお互いに時代劇の中に出てくるような昔の髪型をして着物を着ています。私の隣を歩くその友達は、私よりも年齢は低く、歩きながら一生懸命私に話しかけています。私は彼の話をほとんど聞き流し、そのことに彼は時々腹を立てながら一緒に家路を急いでいます。やがて私たちは大きな塀と垣根に囲まれた古い屋敷の門をくぐります。私たちは薄暗い家の中へ入り、並んで食事をとっています。そのとき食べているものは、薄茶色をしたご飯と、梅干や山菜などのわずかなおかずとお吸い物です。それから私たちは狭い板の間の部屋に薄い布団を敷いて、別々の部屋で床につきます。そんな夢とも現実ともつかないリアルな映像が次から次へと私の頭の中を駆け抜けたのです。このとき私が仲良くしていた年下の友達は、昔の映像の中では私の弟になっていたのです。
私たちは武家の家に生まれ、子供のころに一緒に塾や道場へ通い、年上の私は弟よりも体が大きかったので、よく弟を無視したりいじめたりしていました。そして成人してからも、私は父親の跡取りとして家を継ぎましたが、弟はいわゆる“部屋住み”として冷遇され、同じ兄弟なのに私の家臣のような立場になっていました。弟は幾度となく私から理不尽な扱いをされて悔しさを募らせていましたが、当時の私に弟を思い遣る気持ちはほとんどありませんでした。そんな冷たい家族関係の中で弟は妻をめとることもなく若くして生涯を終えたのです。
 
そして現在でも私はこの幼なじみの友達との縁が続いています。彼は子どもの頃から私のことをずっと兄のように慕うかわいい後輩ですが、私は彼には迷惑のかけられ通しでした。子供の頃は、学校の勉強が分からないと言っては私に宿題を押し付け、私がやっと手に入れたおもちゃを駄々をこねられて彼にいくつもとられました。そして大人になってからは、何度となく金の無心をされましたが、返してもらったことはほとんど記憶にありません。彼に執拗に頼まれて彼女や勤め先を紹介したこともあります。しかし、結果はその都度私の顔はつぶされて尻拭いをさせられました。私の家族や友人は、なぜ私がこんな不誠実な人間と縁を切らないのか理解できないと私を責めました。私はその言葉にあえて何も言い訳はしませんでした。でも、私はずっと以前からその理由は分かっていました。
今、お互い生まれ変わり、今世で友人関係にある彼は、前世では明らかに私がいじめていた弟なのです。私たち二人は、前世で受けた弟の悔しさや悲しさ、そして兄に甘えることができなかった寂しさを晴らすために今世で出会ったのです。そして私にとっても前世で弟に対して何一つ兄らしいことをしてやれなかった時間を埋め合わせるために、今世で彼と会うことが必要だったのです。ですから私は彼にどれだけ裏切られても彼を突き放すことができません。そして彼を憎むこともできないのです。私にとって今世を生きることの理由の一つに、彼の思いを受け止めながら、彼を一人前の人間にするという目的が明確に刻まれているのです。それが前世で兄としての責任を果たせなかった私の生き方の報いなのです。ですから私と彼の関係は今世でこれからもずっと続いていきます。そしていつか、彼が社会人としての自覚をしっかりと持ち、自分の家庭を築き、妻子を養い親孝行することができるようになったときに、私は今世に生まれてきた大きな目的を果たすことになるのです。
 
また、こんな出来事もありました。私が社会人になり会社勤めをスタートしたとき、私はどうしようもない上司の元でとても辛いサラリーマン生活を送りました。彼は好き嫌いの感情で部下を判断します。自分が目をかけたり、気の合う人間にはとっても明るく親切に接しますが、反対に気の合わない部下に対する態度は、とても冷淡で攻撃的でした。そして、私はそんな上司のことがどうしても好きになれず、彼は私の気持ちを見透かしたように、陰湿な意地悪を毎日私にしてきました。彼の悪意に満ちた嫌がらせはとても執拗で、私は一時、会社へ行こうとすると手足が震えたり動悸が止まらなくなるほど精神的に追い詰められました。
 ある夜、私は就寝中にとてもリアルな夢を見ました。私はテレビで見るような戦国時代の合戦場に色鮮やかな甲冑を身にまとって軍議に参加していました。やがて戦が始まり、私は軍議の場所で見かけた味方とともに、馬にまたがり一気に敵陣へ斬り込んで行きました。私は自分の持っている刀を振り回して、何人か敵の足軽を切り殺して敵の本陣へ迫りました。それはとても生々しくて、私には切り殺された足軽の首から吹き上げる返り血の生暖かさや血の臭いがはっきりと感じられました。そして断末魔の叫び声はいつまでも耳にこびりついてこだましていました。そしていよいよ敵の大将に迫ろうとしていたそのときに、目の前に現れた敵の重臣がまさにこの上司だったのです。私たちは命がけで刀を交えて戦いました。そして、激しい戦いの中で彼は私の味方に槍で胸を突かれ、口から血を吹きながら絶命しました。そして私はその場で彼の首を切り落とし、戦果の証として自陣に持ち帰ったのでした。さらにその後、彼の妻子も捕らえられて、全員が川原で殺されて首をさらされました。そのとき必死の形相で命乞いをする子供たちの顔や叫び声は、今でも私の記憶にこびりついています。つまり今、私の精神をギリギリまで追い詰めている冷酷な上司は、彼からすれば何百年か昔に私によって彼や彼の妻子を殺した仇だったのでした。
 私はこの夢を見て、これから私がどれだけ彼に歩み寄っても彼とは良い人間関係が作れないことを悟りました。もっと言えば、このまま彼の力の及ぶ範囲に私がとどまる限り、私は彼によって完膚なきまでにつぶされていくことを感じました。その結果、私はすぐに会社を辞めて彼とは一切接点を持たない別の業種に転職しました。私は新卒で入った希望の会社をこの上司一人のために辞めることになり、人生が大きく狂いました。でも、本当は私の方が先に、彼や彼の大切な家族の人生を終らせていたのでした。私にすればその報いを受けるために、そして彼からすればその恨みを晴らすために、何百年の時を経て今世で出会うことになったのです。
 
ただ、このことによって私はいくつか大切なことを学びました。その一つは、今世で自分の人生に影響を与える人とは、必ず前世でも何かの形で出会い、お互いの人生に影響を与えていることが分かりました。つまり、前世でお互いがどのような形で影響し合ったのかが分かれば、今世でこれからその人とどのような人間関係に発展していくのかが分かります。今の例で言えば、私は新卒で入社した会社にこだわり、その会社にとどまる限り、報われない人生を送ることになったのです。私が会社を辞めると言ったときに、家族や友人はみんな反対しましたが、結果的にあと5年我慢しても10年我慢しても状況はまったく好転することはなかったのです。私は前世での彼との関係が分かったことで、その5年や10年という大切な時間を自分を生かすために使うことができたのです。つまり、前世を観て今世の未来を判断することで、人生の大切な時間を有効に遣うことができるのです。私の名前はダイスケです。あなたの前世を観ることは、あなたの未来を幸せな方向へ導くことに直結します。